切り離した組織を元の組織が管理した状態で独自の判断は可能か?

essaさんの退却戦としての治安維持(ネットに関わる領域における)のあり方 - アンカテというエントリーで、グレーゾーンの犯罪?行為に対して、警察や検察本体から切り離した組織を作って対応すべきだ、と述べられています。

とにかく、その時点での世論の動向に乗っかってグレーゾーンに手を出すとヤケドする、というのは、もはや法則として確定している。

だから、こういうことの善悪を裁定する機関は、次のような性質の別の機関(「情報なんとか委員会」みたいなもの)にまかせた方がいいと思う。

・どうやっても権威が失墜し批判が多いことを想定して、警察や検察本体から切り離す
・多少拙速でもいいから状況の変化にすばやく対応できる身軽さが必要
・対象領域や原理原則を明確化して、その原理原則はきちんと政治的な承認を得る
・その機関の運用自体の透明性、公平性を警察、検察が外からチェックする

この主張は、イノベーションのジレンマという本で述べられている原理と重なっていて、すごく面白いです。
イノベーションのジレンマでは、大企業がうまくいくんだかいかないんだかよく分からないイノベーション(グレーゾーン)に対して、どのように臨むべきかを述べています。著者いわく、

  • 使い道が未知数のイノベーションの市場は、概して規模が小さいので成功しても売上が小さい。このため、大企業の構造上リソースは配分されない。このことを想定して、その市場に臨む組織を企業本体から切り離すべきである。
  • その組織には、市場の変化にすばやく対応できる身軽さが必要。

ただ、本では「その分離した組織の運用を元の企業が管理してはならない」と述べられています。その理由は、分離した組織に求められるのはベンチャーとしての軽やかさであり、元の企業が管理しては大企業の意思決定プロセスに毒されてしまうから、と述べられています。
この理論を正しいと仮定しますと、essaさんが最後に主張されている

  • 「情報なんとか委員会」みたいな機関の運用自体の透明性、公平性を警察、検察が外からチェックする

が実施されれば、機関ではなく警察や検察の判断で善悪が裁定されてしまう、という危険性が指摘できるのではないでしょうか。
しかしこの指摘が正しいとしたら、「じゃあ聞くが、完全な独立性を与えてその機関が暴走しかけた時に誰が止めるのさ」という問題が出てきます。本来は裁判所がその役割を担うべきなんでしょうが、ライブドアショックで見られるように、日本では裁判前の逮捕ないし起訴された時点で社会的に抹殺されてしまう、つまりは裁判が始まる前に暴走がほぼ完結してしまうので、裁判所が暴走監視の役割を担うのは難しいでしょう。
となると、暴走監視用の第三者機関を作るしかないですかねえ。『「情報なんとか委員会」を監視する委員会』とか。でもそれでは『「情報なんとか委員会」を監視する委員会』を監視する委員会が必要になり、さらにそれを監視する組織が必要になり・・・・と、無限に組織が必要になりかねないですね。うーん、ちょっと対案が出ないです・・。

ライブドア解体計画のはじまり?

USENライブドア支援が正式に発表されました。
USEN、ライブドアとの業務提携を正式発表--ライブドアの信頼回復目指す - CNET Japan
テクノロジー : 日経電子版
テクノロジー : 日経電子版
三番目のリンクより抜粋↓

USENではなく宇野社長個人が買い取ったことについて、宇野社長は「ライブドアの財務や法務的な問題をきちんと調査したうえで、将来的に会社として保有するかどうかを検討することになる」と述べた。

フジテレビは宇野社長個人にライブドア株を売却し、取得額との差額損失(売却損)を損害賠償としてライブドアに請求するようです。しかし、株を手放したら株主代表訴訟には参加できないですよね。フジテレビが損害賠償を請求したとして、株主とどちらが賠償金を受け取る順位を優先されるのでしょうか?そもそもライブドアに賠償金を支払うキャッシュがあるのでしょうか?
うがった見方をすれば、「堀江さんに続く第2位の大株主となった宇野社長が、ライブドアのポータルと金融部門をUSENに営業譲渡させ、残った部門を切り売りして得たキャッシュで株主代表訴訟ないしフジテレビの損害賠償を支払う」というシナリオで裏で合意しているのかもしれません・・・。

USENの狙いはライブドアの技術ではなく金融部門らしい

本日、元USENの知り合いと食事をする機会があったので、ライブドア支援の狙いについて聞いてみたところ、USENの狙いはポータルと金融部門ではないか、という答えをもらいました。
彼いわく

  • USENのポータルはどマイナーで、懸念材料だった
  • 数年前から宇野社長はネット金融ビジネスに興味を持っていた

だそうです。
特に利益率の高い金融ビジネスはキャッシュの成る木なので、現状利益が上げれていないUSENとしては、のどから手が出るほど欲しいようです。
三者としては、動画配信とブログの融合のような夢のあるサービスやシナジーなどを期待してしまいますが、中の人間は冷静にキャッシュを生むか否かで判断するようで。そうなると、フジテレビのライブドア株を買い取った後は、金融部門のみ営業譲渡を受けるとか、買収した後ポータルと金融部門のみ残して切り売りするといった、ハゲタカファンドばりの行動をとるかもしれません。そうしたとしても宇野社長は三木谷社長以上にエスタブリッシュメントからの覚えがめでたいそうですから、外資系ファンドと違い、たたかれる心配はなさそうですし。

USENがライブドアを支援?事実なら何が起こるのだろう?

WBSを見ていたら、USENライブドアの支援に乗り出すとういうニュースが。ITmediaでも発表されています(USEN、ライブドアを支援か - ITmedia NEWS)。フジテレビの保有するライブドア株を買って、提携を結ぶみたいです。面白いかも。仮にUSENライブドアと提携した場合のメリットと今後の展開について、思いつくままに書いてみます。
■今回の買収でUsenが得るもの

  1. リーチ
    • Gyaoはまだ知る人ぞ知る、と言う存在。ライブドアのポータルページをGyaoとリンクさせ、集客力を拡大。
  2. ブログ
  3. livedoor wireless
  4. 技術力

■得たものを使って、今後リリースすると予測されるサービス

  1. Gyaoの動画をブログで流す

こんなところで。ただ、上にはメリットしか書いていません。また、訴訟のリスクを考えると、あくまで提携に留まって買収まではいかないような気がします。

イノベーションのジレンマで放送と通信の融合を考えてみる

R30さんの3/31に緊急イベントやります:ソフトバンク×ボーダフォン: R30::マーケティング社会時評での以下の部分を読んで、イノベーションのジレンマを使って、「放送と通信の融合」「CGM」を絡めたメディアの現状を紐解けるんじゃないか、と思いました。

マスメディア、特に新聞は元ネタとなるニュースが出てこないと、それこそ1行も記事が書けなくなる。本当はこの問題をきっかけに通信業界が今どんな役割を産業全体の中で果たすようになってきているのか、ソフトバンク孫正義という経営者はどういう戦略性を持ってこの買収を進めようとしているのか、分析すべきことはたくさんあると思うのだが、どうも話がそちらに行かない。
 テレビはもっと表面的だ。どこかのブログでニュース番組か何かのとんちんかんな解説を嗤ってるのを見たが、こういうファクトもあまりなくて「どこからどう語れば良いのか分からない」出来事に、的確な解説を加えるためのフレームというか時間というのがテレビにはないから、もう何がなんだか分からなくなって、結局「あまりにも深くて重要な問題すぎるがゆえに大きく扱えない」という、訳の分からない状況に陥ってしまう。

思いつきのまま、以下にて述べてみます。
クリステンセン著の、イノベーションのジレンマシリーズの3巻目である「明日は誰のものか イノベーションの最終解」では、イノベーションの種類として次の3つを挙げています。

  1. 生き残りのイノベーション
    • 既成のマーケットによりよい製品を送り込む
  2. ローエンドの破壊のイノベーション
    • 低コストのビジネスモデルを武器に満足度過剰の顧客を狙う
  3. 新たなマーケットを創造する破壊のイノベーション
    • 既存の製品に備わった特質が原因の不便さ、あるいは専門家に頼るしかない不便さを解消することにより、新しい市場を作る

これを、現在のメディアに当てはめてみますと、以下のようになります。

  1. ニッチに特化した既存のメディア(例:LEON)
  2. ネットニュース(例:ポータルやGoogle News
  3. CGM(例:ブログやdiggスラッシュドット

イノベーションのジレンマでは、「生き残りのイノベーション」は利益率の高い顧客を追及し続けて最終的にはハイエンドに特化してしまい、「ローエンドの破壊のイノベーション」や「新たなマーケットを創造する破壊のイノベーション」に市場を奪われてしまう、と述べられています。それが正しいなら、既存メディア(オールドメディア)が市場を確保し続けたければ、破壊のイノベーションを自前で作るか外部から取り込む必要があるわけです。いわゆる、放送と通信の融合です。
現在、テレビ局がネットでニュース番組を配信するなど、破壊のイノベーションの取り組みは進んでいるかに見えます。しかし、それらは「ローエンドの破壊のイノベーション」の取り込みに過ぎず、「新たなマーケットを創造する破壊のイノベーション」はいまだ未着手のままです。
破壊のイノベーションを完全に取り込むためには、「新たなマーケットを創造する破壊のイノベーション」を取り込む必要があります。すなわち、CGMから情報を取り込む「ハブ」の立場を担うことが求められてくるわけです。配信手段をネットに拡大するに留まり、情報を配信するだけの「川上」の立場を守っていては、市場は確保しきれないでしょう。
しかし見方を変えれば、この状況は既存メディアにとっては他社を出し抜くチャンスでもあります。多くの既存メディアが「生き残りのイノベーション」にやっきになっている今だからこそ、どこかの既存メディアがdiggのようなweb2.0的なメディアを用意すれば、他から顧客を奪えるのではないでしょうか。
もっとも、これに対して「ネットのようなしっかりとした裏づけの無い情報を含んだ記事を配信しては、信頼性が損なわれてしまう」という意見も内部から出てくると思います。しかしそれならば、要求される信頼性が異なるスピンアウト組織をつくって破壊の推進を目指してはどうでしょうか。
「明日は誰のものか イノベーションの最終解」では、既存の勝ち組企業がスピンアウト組織を作ることにより、破壊のイノベーションが実現できると述べられています。以下にて、関連する部分を抜粋して、このエントリーを締めたいと思います。

スピンアウト組織をつくって破壊の推進を目指す
多くの人たちは、破壊を生み出すのは文字通りの新規参入企業だけだと考えている。論理的には、既存企業がその企業自体を破壊できる。そして同時に、他の企業を破壊する新しい事業のベンチャー企業も創設できる。最初に成功をおさめた対抗戦略、つまりスピンアウトを実践する既存企業は完全に分離された事業体を立ち上げる。そこでは自由に独自のスキルを開発し、独自に成功の尺度を設定できる。
(中略)
スピンアウトの組織の存在が意味を持つのは、企業にビジネスチャンスをものにするだけのスキルがないか、あるいは組織内部でビジネスチャンスをものにしようという意欲がない場合だけに限られる。

参考リンク
3/31に緊急イベントやります:ソフトバンク×ボーダフォン: R30::マーケティング社会時評
http://hotwired.goo.ne.jp/original/fujimoto/051025/index.html
http://hotwired.goo.ne.jp/news/culture/story/20051124201.html

明日は誰のものか イノベーションの最終解 (Harvard business school press)

明日は誰のものか イノベーションの最終解 (Harvard business school press)

ソフトバンクがGoogleを殺す?

ソフトバンクののボーダフォン買収について、いろいろな考察がされています。大勢の方が予想されている合併後のビジネスモデルは、ヤフーのコンテンツを使った「livedoor wireless」モデルのようです。コンテンツと通信費をユーザーには採算度外視の低額で提供し、収益は広告費で賄う、というモデルですね。あけすけに言えば、「ヤフーの固定通信を契約されている方なら、月500円払うだけで、メールし放題&ヤフー同士の電話はタダ&ヤフー内であれば通信費はタダ」というプランを、パケホーダイプランとは別口で提供する、というような。
ソフトバンクは固定通信でトリプルプレイ(「インターネット接続」「IP電話」「映像配信」)を実現していますから、これに携帯電話を加えた、クワトロプレイを超低額で提供するわけです。しかし、もし、この超低額クワトロプレイが実現した場合、日本のWebアプリ市場がヤフーに飲み込まれてしまうのではないでしょうか。以下にて、その理由を述べてみます。
恐らく、ソフトバンクはヤフーのコンテンツをPCでも携帯でも使えるようにする際、Y!ボタンを作るなど、ヤフーのコンテンツに直結するような仕組みを整えて、ユーザーをヤフーコンテンツに誘導しようとします。上で挙げたプランを採用すれば、コンテンツは通信費こみで無料のため、ユーザーは携帯ではヤフーのWebアプリを使うようになるでしょう。そうなると、PCで使っているWebアプリについても携帯と連動しないのを「不便」と感じるようになり、ヤフーアプリに乗り換えるようになるのではないでしょうか。
例えば、RSSリーダーをPCではてなを使っていたとして、ソフトバンク携帯を使うようになった場合を考えてみてください。携帯ではてなRSSを使うには通信費がかかります。これを嫌って、PC中心のユーザーは携帯ではMy yahooを使うようになります。しかし、携帯でRSSリーダーを見ることに慣れてくるうちに、同じ機能のアプリなのに携帯とPCで別々のアプリを使い分けなくてはならないこと(連動しないこと)に「不便さ」を感じるようになります。この不便さを解決する方法は以下の2つです。

  1. 通信費をはらって携帯でもはてなを利用する
  2. PCで利用するアプリをはてなからMy yahooに乗り換える(通信費はタダ!)

はてなとヤフーの機能にそれほど差が無かった場合、はてなにこだわりを持たないユーザーはヤフーに乗り換えるのではないでしょうか。ましてや、携帯は慣れているがPCは初心者、というユーザーがPCを使い出した場合、なおのことヤフーを優先的に使うようになるでしょう。
つまり、ヤフーが「通信費の縛り」と「WebアプリのPCと携帯電話の連動」を提供することにより、その環境をユーザーは基準に捉えるようになり、ヤフー以外の「金がかかって不便な」アプリを利用しないようになるわけです。さらに、他社が新しくて面白そうなWebアプリを提供しても、「でもそれって携帯ではお金かかるんでしょ?それに本当にすごいものなら、そのうちヤフーがはじめるよ。」と、ヤフーがリリースするまで待つユーザーが出てくるでしょう。「携帯で使えるかどうか」がPCでのアプリ利用の決定要因となっていくわけです。ライトユーザーほどこの傾向が顕著になります。その結果、日本のWebアプリの市場の縮小していくのではないでしょうか。
Webアプリを作る会社の活路としては、マニア向けに特化するか、ヤフーに買ってもらうか(買い叩かれるでしょうが)、ヤフーと提携して技術提供するか(足元を見られそう)・・・。どうなるにせよ明るい未来は想像しにくいです。
もしこのシナリオが実現した場合、Googleもその影響を大きく受けるでしょう。解決方法として考えられるのは、自らも通信に参入する、MVNOをやる、みかじめ料を払ってGoogleへのアクセスは無料にしてもらう、などですが、外資の通信への参入は総務省が認めるか微妙なところですので、MVNOか、みかじめ料あたりが選択肢となりそうです。最悪の場合、eBayのように日本から撤退することも有りうるでしょう。そうなったら、Googleを殺したソフトバンクが、Amazonの日本法人も買収してYahoozonが誕生、なんて未来が待っているのかもしれません。
参考リンク
ソフトバンク×ボーダフォン関連まとめ: R30::マーケティング社会時評

私見:Firefoxが日本で普及しない理由

原因が日本固有なものにあるのかは分かりませんが、私がFirefoxを使わないのは

  • サイトが英語
  • 自分で拡張しないといけない
  • 拡張ファイル(という表現でいいのかな?)を自分で探してこないといけない

という点がネックになってのことです。
そもそも、拡張するというのはブラウザ好きの人にとってはカスタマイズかもしれませんが、そうでない人にとってはパッチをあてるようなものなのです。言ってみれば、車とかオーディオと一緒で、好きな人間から「セクシーな排気音が」「サウンドが違うよ」とか言われても、実用品としてしか見ていない人間にとっては「よく分からなくても使える・必要な機能が一通り揃っている・不具合が無い」ならそれでよし、なわけで。ブラウザは人に見せるものでもない自己満足なモノですから、愛好家と実用主義者の乖離は大きいでしょう。私も実用主義者なので、「あなたが期待する性能を満たすためには、自分でいろいろ探してカスタマイズする必要があります」と言われたら、一通りパッケージされてるSleipnirを使いたくなります。
では、どうしたら普及するかということですが、「Firefox update」のようなものを作って、pullではなくpush型で拡張ファイルの配信を行えばいいかもしれません。その際、よく分からない機能を勝手に追加されたら混乱するので、「追加したい拡張機能チェックボックスで選択する」とか「人気の拡張機能のみ表示する」とか、設定を入れるとか。ただこの方法を採用すると、「こんな誰からも評価されないであろう(初心者はサポートを当然と思う)作業を、どこのgeekがやるのか」という問題があります。
それを考えると、「俺のFirefox」をみんなで公式サイトや自分のブログにUPする方が、geekのモチベーションが上がってよいかもしれません。しかし、これはこれで極端なマニア度披露合戦にもなりそうな。普通に「初心者用パッケージ」を出す方がいいのかな。
なんだかとりとめもない内容になってしまいましたが、とりあえず、Firefoxを日本で普及させるには、「レゴを作る楽しさを教える」のではなく、「初めから組み立ててあるレゴが欲しい人間をいかに取り込むか」がカギとなるのではないでしょうか。
参考リンク
なぜFirefoxは日本では普及しないのか | スラド IT