イノベーションのジレンマで放送と通信の融合を考えてみる
R30さんの3/31に緊急イベントやります:ソフトバンク×ボーダフォン: R30::マーケティング社会時評での以下の部分を読んで、イノベーションのジレンマを使って、「放送と通信の融合」「CGM」を絡めたメディアの現状を紐解けるんじゃないか、と思いました。
マスメディア、特に新聞は元ネタとなるニュースが出てこないと、それこそ1行も記事が書けなくなる。本当はこの問題をきっかけに通信業界が今どんな役割を産業全体の中で果たすようになってきているのか、ソフトバンクの孫正義という経営者はどういう戦略性を持ってこの買収を進めようとしているのか、分析すべきことはたくさんあると思うのだが、どうも話がそちらに行かない。
テレビはもっと表面的だ。どこかのブログでニュース番組か何かのとんちんかんな解説を嗤ってるのを見たが、こういうファクトもあまりなくて「どこからどう語れば良いのか分からない」出来事に、的確な解説を加えるためのフレームというか時間というのがテレビにはないから、もう何がなんだか分からなくなって、結局「あまりにも深くて重要な問題すぎるがゆえに大きく扱えない」という、訳の分からない状況に陥ってしまう。
思いつきのまま、以下にて述べてみます。
クリステンセン著の、イノベーションのジレンマシリーズの3巻目である「明日は誰のものか イノベーションの最終解」では、イノベーションの種類として次の3つを挙げています。
- 生き残りのイノベーション
- 既成のマーケットによりよい製品を送り込む
- ローエンドの破壊のイノベーション
- 低コストのビジネスモデルを武器に満足度過剰の顧客を狙う
- 新たなマーケットを創造する破壊のイノベーション
- 既存の製品に備わった特質が原因の不便さ、あるいは専門家に頼るしかない不便さを解消することにより、新しい市場を作る
これを、現在のメディアに当てはめてみますと、以下のようになります。
- ニッチに特化した既存のメディア(例:LEON)
- ネットニュース(例:ポータルやGoogle News)
- CGM(例:ブログやdigg、スラッシュドット)
イノベーションのジレンマでは、「生き残りのイノベーション」は利益率の高い顧客を追及し続けて最終的にはハイエンドに特化してしまい、「ローエンドの破壊のイノベーション」や「新たなマーケットを創造する破壊のイノベーション」に市場を奪われてしまう、と述べられています。それが正しいなら、既存メディア(オールドメディア)が市場を確保し続けたければ、破壊のイノベーションを自前で作るか外部から取り込む必要があるわけです。いわゆる、放送と通信の融合です。
現在、テレビ局がネットでニュース番組を配信するなど、破壊のイノベーションの取り組みは進んでいるかに見えます。しかし、それらは「ローエンドの破壊のイノベーション」の取り込みに過ぎず、「新たなマーケットを創造する破壊のイノベーション」はいまだ未着手のままです。
破壊のイノベーションを完全に取り込むためには、「新たなマーケットを創造する破壊のイノベーション」を取り込む必要があります。すなわち、CGMから情報を取り込む「ハブ」の立場を担うことが求められてくるわけです。配信手段をネットに拡大するに留まり、情報を配信するだけの「川上」の立場を守っていては、市場は確保しきれないでしょう。
しかし見方を変えれば、この状況は既存メディアにとっては他社を出し抜くチャンスでもあります。多くの既存メディアが「生き残りのイノベーション」にやっきになっている今だからこそ、どこかの既存メディアがdiggのようなweb2.0的なメディアを用意すれば、他から顧客を奪えるのではないでしょうか。
もっとも、これに対して「ネットのようなしっかりとした裏づけの無い情報を含んだ記事を配信しては、信頼性が損なわれてしまう」という意見も内部から出てくると思います。しかしそれならば、要求される信頼性が異なるスピンアウト組織をつくって破壊の推進を目指してはどうでしょうか。
「明日は誰のものか イノベーションの最終解」では、既存の勝ち組企業がスピンアウト組織を作ることにより、破壊のイノベーションが実現できると述べられています。以下にて、関連する部分を抜粋して、このエントリーを締めたいと思います。
スピンアウト組織をつくって破壊の推進を目指す
多くの人たちは、破壊を生み出すのは文字通りの新規参入企業だけだと考えている。論理的には、既存企業がその企業自体を破壊できる。そして同時に、他の企業を破壊する新しい事業のベンチャー企業も創設できる。最初に成功をおさめた対抗戦略、つまりスピンアウトを実践する既存企業は完全に分離された事業体を立ち上げる。そこでは自由に独自のスキルを開発し、独自に成功の尺度を設定できる。
(中略)
スピンアウトの組織の存在が意味を持つのは、企業にビジネスチャンスをものにするだけのスキルがないか、あるいは組織内部でビジネスチャンスをものにしようという意欲がない場合だけに限られる。
参考リンク
3/31に緊急イベントやります:ソフトバンク×ボーダフォン: R30::マーケティング社会時評
http://hotwired.goo.ne.jp/original/fujimoto/051025/index.html
http://hotwired.goo.ne.jp/news/culture/story/20051124201.html
明日は誰のものか イノベーションの最終解 (Harvard business school press)
- 作者: クレイトン・M・クリステンセン,スコット・D・アンソニー,エリック・A・ロス,宮本喜一
- 出版社/メーカー: ランダムハウス講談社
- 発売日: 2005/09/16
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