MVNOが活性化するには・・・

MVNOという言葉があります。携帯電話などの無線通信インフラを他社から借り受けてサービスを提供している事業者のことを指す用語です。MVNOが先行している欧州の例を見る限りでは、借り手との差別化を図るため、低価格で提供したり、コンテンツを絡めたりするパターンが多いようです。では、日本ではMVNOはどのような形で展開されるのでしょうか?
MVNOが成立するには、当然ながら、借り手と貸し手との間にWin-Winの関係が成立する必要があります。ゆえにMVNOが既存キャリアとかぶる分野で勝負するならば、シェアを食われるキャリアは回線を提供しようとはしないでしょう。それを考えると、既存キャリアに大きなダメージを与えかねない低価格化路線のMVNOが成立する見込みは低くなります。加えて、日本の携帯業界においてはデータ通信単体は儲からないビジネスになりつつあるため、低価格路線では長期的な利益は見込みにくいです。このことから、日本におけるMVNOの有力候補は、ネットワークに乗せるコンテンツ(ないしそれに付加した広告費)で付加価値をつけられる会社、すなわちコンテンツ配信業者であると言えます。
コンテンツ配信業者がMVNOとなるには、コンテンツの儲けを貸し手(キャリア)と分け合う必要があります。「儲かるコンテンツの利益はオレのもの、お前らは儲からないインフラを保守しなさい、そんなわけで回線貸して!」などといっても貸し手は応じないでしょう。ゆえに、合弁会社やLLPなどの貸し手と借り手の共同出資によるMVNOを立ち上げ、利益を分け合う形で展開することになるでしょう。
さて、ではどのようなコンテンツ配信業者がMVNOとなるのでしょうか?主な条件として挙げられるのは「高いニーズが見込めるコンテンツを持っていること」「提供するコンテンツは貸し手のコンテンツとかぶらないこと」「貸し手には無いブランド力があること」の3点です。
この条件を満たす例としてまず挙げられるのが、Appleです。着うたなどの音楽コンテンツで稼ぐauに対抗するため、ドコモやボーダフォンが提携しようとする可能性は高いと思われます。特にドコモはdat_MOなど、自社のおっさん臭いイメージを改善することに熱心です。Appleのブランドイメージは魅力的に感じるでしょう。また、スティーブ・ジョブズAppleとディズニーの両方の経営にタッチしていることから、ディズニーのコンテンツも提供されると予測されます。かっこよさとかわいさの両面で訴求できる強力な候補です。もう1つの候補は任天堂です。ニンテンドーDSWiFiに対応しており、ネットゲームだけでなく、ゲームデータやコンテンツ配信まで将来的には実施していくことになるでしょう。ポケモンどうぶつの森などのキラーコンテンツは強力な訴求力となります。
ただし問題なのは、どちらもコンテンツとブランド力が強力すぎる、ということです。両社とMVNOを実施した場合、貸し手(キャリア)の主戦場であるマスマーケットが奪われ、ひさしを貸して母屋を取られることになる可能性が十分にあります。これを警戒して、貸し手がマスマーケットへの影響が小さい(あるいは補完関係となりうる)、ニッチなマーケットを対象としている企業を選ぶ可能性があります。
ただ、ニッチの分野は市場も小さく、漫然とコンテンツを流すだけでは携帯(ネット)単体での利益は物足りないものになります。ゆえに貸し手側は、多数のニッチブランドをMVNOとした、小さい利益を集積するビジネスモデルを展開することになるでしょう。
結局のところ、MVNOを成立させるには、貸し手と借り手との間に補完関係を築いていくことが必要になると思います。当然ながら、どちらにもメリットがないと提携というものは成立しないわけですので。

参考リンク
【集中連載 通信大改革の行方】(1)新規参入とMVNOで激震する携帯電話業界 | 日経 xTECH(クロステック)
ITmediaビジネスモバイル:MVNOの実態と課題──MVNOフォーラム (1/3)
メディア・パブ: インターネットの危機説,中立性が崩壊するかも
ネットワーク・インフラ“ただ乗り論”再燃,NTT和田社長が懸念 | 日経 xTECH(クロステック)
※朝のエントリーを大幅に改訂しました